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  入 れ 歯  1 ・ 青 鬼 倒 れ る


 かれこれ半月になろうか・・・、父は『入れ歯』を外すということを全くしていない。したがって、『入れ歯』自体を全く洗っていない。(ちなみに、父の『入れ歯』は上の前歯を含む部分入れ歯)
 それでも有り難いことに、一日の始まりである朝のほとんどは、普通にちゃんと歯を磨いてくれる。(但し、歯磨き粉はあんまり付けられない・・・『クチュクチュ・ペッ』を嫌がって飲んでしまう場合が時々あるので)それに加え、デイへ行った日はお昼も磨いて来るようなので有り難い。
 しかし、夜の場合はそうはいかない。眠くなった父は、睡魔に襲われる子供のように不機嫌になり、寝る前の歯磨きやトイレに行くことをとても嫌がる(面倒くさがる)。長い間洗浄されていない『入れ歯』と、しっかりとは磨かれていない歯と口の中。当然ながら、臭い。
 なので、是非とも『入れ歯』を外してもらい、ポリデントで消毒させて欲しい!
 『入れ歯』を外すよう家族みんなで促してはみるが、「あとで・・・」と口先を濁らせたり、「イヤ!」だとはっきり断言してその場をそそくさと逃走したり、そうかと思えば、いつもの怒りモードで抵抗されこちらは閉口するしかない。

 為す術のないままのある日、いつものようにカワイイ孫≠ナあるみみかを相手に、嬉しそうな顔をしてちょっかいを出す父。その姿は、好きな女の子にチョコチョコッと繰り返しちょっかいを出して構う男の子のようだ。そんな父の態度に『あーあ、また始まったあ・・・』と、少々ウンザリで溜め息まじりなみみか。
 それでも、私や母や大人相手には決して見せない、とびっきりの笑顔になる唯一の相手、それがカワイイ孫≠ナある自分だということを、みみかも重々承知している。なので、(半分は仕方なく)自分のテンションを揚げて父の『お相手』をしてくれる。(みみかに対してはめったにないが)怒りモードの怖い顔の父よりも、やっぱり喜ぶ顔や笑顔の方がみみかだって嬉しいのだ。
 その日はちょうど節分で、みみかは『青鬼』の絵を書いて遊んでいた。ちょっかいを出す父に、みみかはその鬼の絵を自分の額にくっ付けてお面のようにし、『ガオォーッ!』と雄叫びを上げながら父に向かって行った。すると父は、みみかの顔面にピラピラはためく『青鬼』に向かって、『フウーッ!!』と思いっきり息を吹き付けた。
 そう・・・吹き付けられたその息は、間違いなく臭い『悪臭』のはずである。案の定、「うわぁ〜!!」と驚きの声をあげ、後ろへ倒れ込むみみか・・・いや『青鬼』がそこにいた。さすがの『青鬼』も父の悪臭攻撃にはたじたじで、敢え無く退散するしかなかった。今年の我が家の節分は、豆を撒くまでもなく父の一息で鬼は逃げ去った。
 みみか曰く、「お面がなかったら、みみか死んでたかも〜!」「あれは強烈な毒ガスやあ!」思わぬ『毒ガス発射』で悪臭攻撃を受けたみみか。一刻も早く、あの臭〜い『入れ歯』を外してもらうことが、みみかの切実な願いとなった。





 
   
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