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  絨 毯 ま で た た む の だ !  2 ・ 積 極 的 沈 黙


 《自分自身の忍耐や寛容や包容を高めることでしか、冷静に穏やかに父を『見守る』ということは出来ない。そういった素晴らしい機会を与えてもらっていると同時に、私たちはそういったことを父から学ばせてもらっている。》
 ・・・とは言え、母の後を追う子供のような父に、『育児』とも『子育て』とも取れるような献身的なお世話をしなくてはならない母にとって、このような考えに焦点を合わせることは非常に難しい。
 何しろ母の後を追う大きな子供は、身に付けたいろんなことを脱ぎ捨てていくという、成長過程の枯れていく段階なのだ。身に付いた自我もプライドもまだ残っており、幼い子供のように単純にいかないことも多い。その上、肉体的な力も残っているから闘争感情にスイッチが入ると、身の危険を僅かばかりでも感じることもある。
 何よりも、言葉に対する理解力と認知力の低下で、こちらの言っていることが理解されないことも多く、父の言うことのほとんどがこちらにも理解不能な原語であるため、言葉でのコミュニケーションが至難の業なのだ。
 そんな状態の毎日なので、絨毯までたたんでしまおうとする父に、ある日母は怒りをぶつけながらその行動を阻止しようとした。父のその間違った行動の訂正が返ってくるはずもなく、怒りには怒りが・・・で、母の怒りに怒り返す父がいるだけだった。
 幼い子供が相手なら、凄んでみたり怒ってみたりのパワーで、こちらの意のままに動かせることも出来なくもない。しかし、父に関しては怒りをぶつけても怒っても、間違いを正して軌道修正させようとしても、ほとんどそれが聞き入れられることはない。
 「間違ったこと違うことをしてたら、たまには怒らんなアカン!」と母。父に対する『怒りたいストレス』が、日頃から母の中には溜まっている。結果は分かりきっていても、おそらく言わずにはいられないんだろう。母もたまにはガス抜きが必要なのだ。『怒りたいストレス』も表現されることで消化される。
 だけど、母が父の間違いを正そうと怒るたび、繰り広げられる二人のバトルに、「怒って言うこと聞くのかな?」そう思ってしまう私に必要なのは、『積極的忍耐&積極的沈黙』。

      

 
   
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