目次へ

 7 

 

  絨 毯 ま で た た む の だ !  1 ・ 積 極 的 忍 耐


 父は起床すると家族みんなの布団をたたんでくれる。自分の仕事だと思っている。一番起床の遅いみみかの布団を追いはぎのように剥ぎ取ってたたんでしまうこともある。「もう!」と怒るみみかや、「みみか、まだ寝てるや〜ん!」とやんわり批判めいて父に言う母がいる。でも、実際父が布団をたたんでくれるお陰で、私たちはその分の用事をしなくてすみ楽になっている。
 怒るみみかに言う。「じいじが追いはぎしてくれるお陰で、みみかはちゃんと早起きが出来るんやん?」「それに、じいじがみみかのお布団をたたんでくれるから、みみかは自分でたたまんでもええわけでしょう?」「みみかはその分楽チンやん!」         
 父母たちがいないときには、朝の布団たたみはみみかの仕事になっている。だから、父の追いはぎは、みみかにとってラッキーなことなのだ。(みみかも実はそう思っているに違いない!)
 父は奉仕精神が旺盛である。『誰かのために、何かのために、お役に立てるよう自分を使って働きたい!』そういう欲求がとても強い。これは、誰もが持っている人間の基本的な本来の欲求なのだろう。だから、父は働く。
『働く』とは『人が動く』こと、そして『ハタをラクにする』こと。父は動いて、私たちハタにいる人間をラクにしようとしてくれている。とっても有り難い父の純粋な奉仕である。
 父の布団たたみはちゃんとたためて押入れに仕舞われる日もあるが、時には『ウーン!』と悩みながら布団を見つめ、いつもとは違う合理的でないたたみ方をすることもある。たまに、布団の下に敷いてある絨毯までもたたんでしまい、押入れの中に仕舞い込まれることもある。それに気付いてその行為を阻止しようとすると、『ワシの仕事を邪魔するな!』『ワシの仕事にケチをつけるのか!』と言わんばかりに怒り出す。そして、最後まで必ずやり遂げる!
 だから、私たちは見て見ぬふりで父の仕事の完了を待って、後でこっそり押入れから絨毯を救い出し元の位置に戻している。確かにこの辺りの過剰な奉仕行為は、私たちの手間を増やしてはいるが、それにも父からの素晴らしい贈り物がある。それは、忍耐や寛容や包容といった、人にとっての向上すべき(したい)成長すべき(したい)点での機会を与えてくれていること。自分自身の忍耐や寛容や包容を高めることでしか、冷静に穏やかに父を『見守る』ということは出来ない。そういった素晴らしい機会を与えてもらっていると同時に、私たちはそういったことを父から学ばせてもらっているのだ。

      

 
   
 7 




 

 

虹色アーチトップページへ