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  荷 物


自分の内に起こる何とも言えない感覚や、人間智では計り知れない世界などに対し、私は戸惑いや抵抗感を持ちながらも「神への全託」という形でずっと祈っていた。
そして、その祈り方は「私の存在が人々のお役に立つ光でありますように」とか「愛深く祈り深くありますように」とか、そんな風に意識的な具体性を持った素直な内容になっていった。

自分自身の身の上に起こる様々な出来事などに対しても、そういった不思議な神秘的な体験を自らが求めていたのだといつしか思えるようになり、そんな体験自体への感謝の気持ちも芽生えていった。
自分が持っている能力や何かを、認め受け入れる態度へと私の心が変わり出した頃、一連の硬直などの出来事は始まったのだった。

ある日の朝。
いつものように祈りを捧げていた私は、とても孤独でとても淋しい何とも言えない気持ちに襲われて、居ても立ってもいられなくなった。
誰もが抱える(人類の業的な)人間の持つ心の内のいろんな苦しみを、突如として私は感じ号泣してしまった。
『ああ、どうか神様!その(苦しみの)せいで、みんなが幸せな楽しい気持ちになれないのなら、その苦しみ悲しみを私に受け取らせて下さい!・・・それが私の役目ならば・・・!』思わず私は心の中でそう叫んでいた。
それが真に私の役目であるならば、そうさせてもらえることが私の喜びであり幸せだと、本当にその時は心の底から思ったのだ。

号泣しながらそんな祈りをしていると、私はこんなビジョンを見た。

たくさんの人たちが、まん丸い地球の上をフワフワと浮いている。
サンタクロースが抱えるような白い袋を、みんなそれぞれの肩に背負っている。
白い袋の中身は何を隠そう、人が生きていくために必要な『ある程度の苦しみや悲しみ』だった。
『ある程度の苦しみや悲しみ』は、人間がその人の個性として生きていくための自分の選んだ贈り物であり、すなわち神の御心でもある荷物だった。

白い袋の荷物の大きさは、大体みんな同じぐらいの膨らみで、みんな同じように肩から背負っていた。
けれど、私の目に他の人たちよりはるかに大きな膨らみの重そうな荷物を抱えた人物が映った。
よくよく見ると、それはG氏とあの少女Aだった。
二人は、ある程度の加減をはるかに超えたごちゃごちゃで大きく膨らんだ、どっしりと重い荷物を背負っていた。
どう見ても、その重みゆえまともに歩けそうにはなかった。

私は呆れながら『こんなに重いと歩けるわけないよね』と心の中で呟いた。
そして、少女Aの荷物を分捕ってその袋の口を開いた。
私は『オリャアー!』と声を上げながら力いっぱい袋を振り回し、その中身を遠い暗闇にまき散らした。
すると、少女Aのまき散らされた苦しみや悲しみは、宇宙の暗闇の中でたくさんの美しいハートの形に姿を変え煌めいた。
次に、私はG氏の荷物を分捕り、同じように袋の中身を宇宙の暗闇に『オリャアー!』とばらまいた。
するとG氏の苦しみや悲しみは、今度は綺麗な星型に姿を変えて、キラキラ光りながら暗闇の中に飛んで行き見えなくなった。

変なビジョンを見たものだと思いながら、私が祈りを終え帰ろうとした頃、あの少女Aが祈りの場にやって来た。
たった今見たビジョンのこともあり「あんなに抱えてちゃ苦しいよ・・・!」と、私は思わず少女Aをギュッと抱きしめた。
【彼女の苦しみは私の苦しみ】・・・そう感じながら。
そう感じながら、でもしかし『罪は無い!全ては神の御心なんだ!』との強い気持ちが、何故だか私の心の中にはあった。

キョトンとしている少女Aに、私は今しがたのビジョンの内容を話した。
すると彼女は驚いて、「そう言えば・・・白い袋を抱えたサンタクロースの人形をG氏が持ってたよ!」と教えてくれた。
しかも、「そのサンタクロースが抱えた袋の中には、大きなお星さまが入っていた!」と、少女Aは言ったのだ。
私たちは・・・顔を見合わせ絶句した。


 
   
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