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  『 愛 あ る 行 動 』


私が人前で倒れ体が硬直する(動けない)理由には、いろんなことが考えられた。
中には未だ私自身、理解し得ていないこともあると思う。
しかし、一つの理由として、『そういった私の姿を見せる必要(見る人側からすると見る必要)』があるのだと、私は思っていた。

『普通の人』である私が、このような一種霊的な神懸り的な状態になり、それを見た人たちがその時のその状態の、ありのままの私を受け入れることが出来るか?
もしくは、『恐い、気持ち悪い』そう思って拒否するのか?
また、その出来事から、その人が何を感じ何を思うのか?
そこに、何か意味があるようにも思えた。

硬直した私は、自分の力で自分の体を動かすことが全く出来なかった。
目もずっと閉じられたままだったが、意識ははっきりとしていた。
私の周りに人が集まる気配を感じることも、話しかけられる言葉を聞くこともちゃんと出来ていた。
固まったまま全く声を出せない時もあれば、体は動かせないが声を出して話しが出来る時もあった。
その時によって、私の体の状態はさまざまな反応を示した。

ある時、日々の行動を共にしていた仲間の前で、私の体は突然硬直した。
突然のことに皆は驚いたが、彼らは倒れた私を囲んで集まり、固まる私を心配し祈り愛念の気持ちを送ってくれた。
彼らの愛の祈りによって受け入れられた私は、これもまた催眠術から解かれたように、フッと体が緩み元通りに戻ったのだ。
その時の硬直の意味は、彼らの(私への)愛を引き出すためのもののように感じられた。

また、ある日のこと。
私は、ある男の子の前で突然固まってしまった。
出会った当初、彼はあまり人のために何かをするというタイプではなく、どちらかと言うと仲間から敬遠されてしまうような性格の持ち主だった。
にもかかわらず、不思議と私はそんな彼と仲良くなっていた。

私が彼の前で硬直した時、そこには彼と私以外の誰もいなくて、彼はオロオロしながらそこを出たり入ったりしていた。
いつもなら誰か通りそうなところなのだが、不思議とその時は人っ子一人通らなかった。
全く動く気配のない私を、彼は何度も置き去りにしようとしていた。
しかし気になるらしく、引き返して来ては何やら思案している様子だった。
結局のところ、彼の取った行動は、硬直し動けなくなった私を、一人で負ぶって長い階段を上り下りし、私の部屋まで連れて行くというものだった。

部屋の前に辿り着くと、私の硬直は彼の背中の中で突然解かれた。
私は彼の背中から降りながら、『一体これにはどんな意味があるのだろう?』と心の中で考えていた。
・・・すると、彼がポツリと言った。
「実は俺、腰が悪くて重いものはあんまり持てないんだ」と。
そう、彼の取った行動は『愛ある行動』だったのだ。

「知らないよ」とか「置いてくよ」とか言いつつも、彼がオロオロと出たり入ったりしていたのは、手助けしてくれる誰かを探していたのだ。
結果的に、彼は私のために自分の体に無理をして、私を遠い部屋まで運んでくれたのだった。
もちろん、私を思う愛から取った彼の行動は、彼の病んでいる腰を痛めつけることはなかった。
彼が腰の問題を押してまでも、私に対し『愛ある行動』を実践し得たことに、この時の硬直の意味があったのだと私は理解した。


 
   
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