B 氏 の 怒 り
B氏の元を訪ねた私は、意を決してこう切り出した。
「面と向かって言い辛いけれど・・・私はあなたが好きです。
上手く言えないけれど、なんと言うか・・・あなたと魂同士で触れ合いたい、そう願っています。
だけど、あなたがどう応えるかは分からないけど、正直に言うと、あなたに抱いて欲しいとも思っています」
それを聞いたB氏はしばらく沈黙した。
そして、私を馬鹿にしたような態度でこう答えた。
「そういったことには全く興味がないね」
B氏の愛想のない返事に、私は『あ、そう』と心の中で思った。
断られるだろうと予想はしていたし、そんな態度で答えられることも、私のどこかで感じていたようだった。
だから、たいしたショックはなかった。
しかし、B氏は更に言葉を続けた。
「そんなことに興味のある人間は他にたくさんいる。
その人たちの所へ行けばいいさ、きっと抱いてもらえるよ」・・・と。
この言葉には、私もさすがにショックを受けた。
『ありったけの勇気を出して、B氏だからこそ正直にぶつけたのに(こんな返答をするなんて)・・・』と。
そう思いながらも、しかしB氏はその言葉を、本当は私に向かってぶつけているのではないと感じた。
何故そう感じたのかは、自分でも分からない。
でも、僅かばかりの怒りを表しながら、B氏は私を通した誰かに向かって、その言葉をぶつけているように見えた。
B氏の放つ言葉の中に、その誰かに対する深くやるせない怒りを私は感じ取ったのだ。
でも、その時の私はB氏のその怒りよりも、自分の目前にキスしたり女性を抱けるかも知れないチャンスがあるというのに、男性としてどうしてそんなに平気でいられるのか?そういった疑問の方が大事だった。
私の率直な疑問にB氏はこう答えた。
「父親的な感覚で対応するからだよ」と。
B氏のこの返答に、私は妙な違和感を感じた。
そしてその違和感と同時に、私の頭の中に一人の男性の顔が浮かんだ。
それは、皆から尊敬され崇められている男性G氏だった。
彼は迷える人たちに適切なアドバイスをし、多くの人々を良き方向へと導いていた。
もちろん素晴らしい人ではあるのだろう、私も否定はしない・・・。
だが、鼻っぱしの強い私は、いくらすごい人であっても、盲目的にG氏を見つめることが出来なかった。
私は彼のことを、密かにチャン付けで『G氏チャン』などと愛情込めて呼んでいた。
実際、私は等身大のG氏には好感を持っていた。
私が感じたB氏の怒りと返答に対する違和感、そして何故G氏の顔が浮かんだのか、この時点での私には、それらを言葉で説明すること不可能だった。
だから、これらのことは保留の産物として、しばらく私の心の中に留まることになった。
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