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  恥 じ ら い


自分の中の三つの存在に揺れ動く中、子供のような働きをしていた私の中の『Iちゃん』はいつしか姿を消していた。
そして、それとは別の存在から湧いてくる『こんなこと言いたくない!』と思うような言葉が、私の喉元まで押し迫っていた。
心の中で大荒れに葛藤しながらも、結局私はB氏にその言葉を発していた。
「キスして欲しい」 と。

『こんなチャンス、断る男なんているはずない!』そう嘯(うそ)ぶく私の中の『お女郎』。
『この人なら、もしかしたら墜ちたりしないんじゃないか?』そう信じたい『冷静な私』。
私の中の二人の思いが交錯する。

私の言葉を聞いたB氏は、少し驚いたようだった。
しかし次の瞬間、B氏の顔が私の顔に近づいてきた。

『なーんだ、ほーらね!』心の中でそう呟く私の中の『お女郎』。
『やっぱりそうなの!?』と、『冷静な私』。
勝ち誇った感情と残念がる感情が、私の中で同居した。

そうこうしている間に、B氏の唇が私の唇に触れようとしていた。
と、突然、私は異様な感触を唇に受けた。
なんと!B氏は私の唇をペロリとなめたのだ。
「キャー!」悲鳴を上げる私。
茶目っ気たっぷりに笑うB氏。

『なんてことするのよ!』と、怒り出す私の中の『お女郎』。
そして、さっきまで残念がっていた『冷静な私』がとても喜んでいる。
またもや、二つの感情が同時に交錯し同居した。

墜ちなかったB氏に対し、感情的には悔しさのモヤモヤを感じながら、でも、こんな状況に応じない男もいるんだと、結局のところ『奥底の私』は喜んでいた。

B氏は調子に乗って「オッパイを触ったって、全然平気だよ(墜ちないよ)!」と、冗談っぽく私の胸を触ろうとした。
その瞬間、私は頭に血がのぼり【恥ずかしい!】と、心底そう思った。
私は再び叫び声を上げ、気が付けば体をB氏から背け、自分の胸を守っていた。
この【恥ずかしい!】という感情ととっさに取った自分の胸を守るという行動、その恥じらいの立ち居振る舞いは、私の中の『お女郎』に強烈な衝撃を与えた。
・・・恥じらうことなど忘れてしまわなければ出来ない【女郎】という仕事。
私の中の『お女郎』は、忘れてしまっていた女性としての恥じらいを、今この瞬間思い出したのだった。



 
   
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