有 意 義 な 会 話
相も変わらず私は、そこで目にする生活の矛盾にも思い悩んでいた。
『どうして真理のあるこの場所で、人々はこうも目覚めていないのか!?』
・・・お偉い先生だと言われる人たちも、私にとっては例外ではなかった。
そして、そのお偉い先生方がすることを、自分が真似るということで安心感を得ようとしている人たち。
自分の本来の個性をなおざりにした上で、こういったことが為されているように見える現実に、元々の意味を履き違えている・・・、そう思わずにはいられないことを私は多々感じた。
悶々とした日々を過ごし、そういった私の心の葛藤や矛盾は激しくなるばかりだった。
唯一そんな心の内を話せる夫に、時々電話をしては私の目に映る現実を聞いてもらっていた。
だが、私のストレスや疑問は深まり溜まる一方だった。
ある日、電話の向こうで夫が言った。
「そこにいる人で、誰か話せる人はいないの?」と。
元々宗教嫌いの私は、どんなに地位にある人もどんなに権威のある人も、(私の中では)信用できずにいた。
だから、このような私の心の内を、ここの誰かに話すことなど考えも及ばなかった。
でも、そう言われてただ一人だけ頭に浮かぶ人物がいた。
あのイベントの日、型破りな自己表現をしていたあの男性B氏である。
あの日以来、お互いの存在を認識した私たちは、好意的な挨拶を交わすようになっていた。
しかし、頭に浮かぶからと言って、B氏を信用しているわけではなかった。
だけど、実際B氏は、ここにいる他の人とはちょっと違うような気もしていた。
私の「一人だけ話せそうな人がいる・・・」の言葉に、夫は「話してみたら?」そう言って電話を切った。
数日後、私は思い切ってB氏に相談を持ちかけた。
だが、心の中に渦巻くこの場所での矛盾などを、私はなかなか打ち明けることが出来なかった。
B氏を信用していなかったことと、この場所にいながら「私、宗教は嫌いなんです!」・・・と、ましてや批判的とも取れるここでの矛盾を言うことなど、とてもじゃないが出来なかった。
そんな私に対して、B氏は他の相談者に対するのと同じく、私がここへ来るきっかけとなった問題などについて聞いてきた。
B氏から問われる質問に答えながら、『本当はそんなこと、今はどうでもいいの!』と心では叫んでいた。
が結局、その時の私は、自分の本当の思いを吐き出せないまま終わってしまった。
その後、同じ状況がしばらく続き、私はまるで消化不良を起こしたような、どんよりとした重い雲に取り囲まれたような、気分のすぐれない時間を過ごした。
堪りかねた私は、何度目かのB氏との会話の中でとうとう吐き出してしまった。
この場所でのさまざまな矛盾、本当の意味での真理を理解していない人々の行い、そして『真理は好きだけど、宗教は大っ嫌いだ!』と。
すると、「僕も宗教は嫌いです」B氏はそうあっさりと言った。
意外なB氏の返答に、私は『はあ・・・?』と思いながら、でも私の言っている宗教嫌いの本当の意味を、B氏はちゃんと理解してくれているのだと感じた。
B氏は言葉を選びながら、自分が私と同じことを思っていることや、ここでのジレンマについて語ってくれた。
その日の会話は、二人にとってとても有意義なものとなった。
会話が済んだ後、偶然私たちはあの少女Aとバッタリと出くわした。
私の目の前で、もとより知り合いだったB氏と少女Aが言葉を交わす。
その何気ないやり取りに、私は言い表すことの出来ない微妙な何かを感じ取った。
【この二人は、何か繋がっている】・・・そんな風に。
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