少 女 A
運命の本に出会ってしまい、【使命】に対して抑えきれない何かを更に抱いてしまった私は、いっそう悶々とした気持ちになっていた。
ましてや、自分が【選ばれた者】だなんて・・・、何がなんだか分からなくなっていた。
この頃、私は一人の少女と出会う。
その少女Aは、透き通るような輝きを身に付けた、美しく可憐で清楚な感じのする女の子だった。
同性である私にさえ、惹かれる何かを感じさせた。
私たちは出会うたび、何とはなしに挨拶を交わし、そのうちにちょっとした会話も交わすようになっていた。
ある日、私は少女Aに言った。
「あなたはとても綺麗で清楚だし、男の人が放っておかないでしょう?」と。
すると、少女Aは「いえいえ、そんなことは・・・」と、謙虚そうに返事をした。
「またまたあ〜」などと、同じような問答を繰り返すうち、私はなんだか変だなと思い始めた。
少女Aの顔の表面はちゃんと笑って答えているのだが、その奥底の奥深くが笑ってはいない・・・、そんな気がした。
少女Aと別れた後、私の心がざわついた。
『少女Aは何かを隠し抱え苦しんでいる』そう私には感じられた。
そしてそれは『私と共通した苦しみでもある』と、そんな思いが浮かんだ。
私は自分自身を顧みてみた。
「綺麗だね」「清楚だね」などと他人から言われることに、私自身苦痛を感じることがあった。
繰り返す不倫などの行いに、罪の意識を感じている自分が【汚れなき人間/清楚な女性】、そんな風に扱われることがとても嫌だった。
もしかしたら、少女Aもそんな風に扱われることが嫌なのではないだろうか?
そんなことを思った。
次の日、私は少女Aに手紙を書いて渡した。
もしかしたらだけれど・・・、 私もあなたと同じような気持ちだったことがあるのだと、昨日感じた扱われ方について思ったことをそのまま書いた。
それで、もし昨日の私の言葉があなたに不快な思いを与えたのならごめんなさい・・・と。
離れた場所にいた私に、手紙を読み終えた少女Aは遠くから『ピンポーン!』と、当たりのサインをジェスチャーで送ってきた。
その表情は、昨日のそれとは打って変わって、とても晴れやかに見えた。
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