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  運 命 の 本


私は、自分に語りかけられたごとく感じた例の本を手に入れ読み始めた。
その本は、信仰や迷信、霊の存在などを馬鹿にし嘲笑する無神論者の主人公が、死後の世界や魂は永遠であること、神の存在そして法則や真理などを愛する亡き父を通し伝えられ、理解を深めて行くという内容のものだった。

主人公は、自分の元を訪れた父の霊魂に困惑し、そしてその父から伝えられる真理に更に困惑し混乱する。
しかし、伝えられるその真理に対し、どこか悦びを感じる自分がいることも否定出来ずにいる。
そういった馬鹿げた自分に、自己批判や反省を何度も何度も繰り返す。
神聖に触れ歓喜する自分と、それを信じられない信じたくない疑問だらけの自分の心、そういった矛盾から彼は憂鬱になる。
そんな愛する息子に、父は優しくこう告げる。
『これらは、人間智では到底理解できないものであり、魂の深い所での理解には更に時間がかかるものなのだ。 湧き起こる疑問に対しては、適当な時期が来たときに順を追って必ず答えよう。お前の感じた疑問の全ては、決して忘れはしない』。

そして、父の伝える内容は更に奥深く、かつての人間たちが知り得なかったことにまで触れ始めた。
〜人間は、地上に生を受けた生命であり、地上の法則によって支配されている。
人間の理解できることは、地上の法則にかなうことだけである。
人間は、神の意志から放たれた光であり、思考も行動も全ては定められている。
人間が神の操り人形だということを、地上の人間が知ったならば、はたしてどうなるか?
そういった中、疑問の中を突き進み、奥を探り当てようとする人間は選ばれた人なのだ。
知恵ある者はかつて知恵なき者であり、知恵なき者はいずれ知恵を得る。
ある人は霊魂の存在を信じ、ある人は霊魂の存在を信じない。
信じる人も信じない人も、各々が必然的にそうなるようになっているのである。

しかし、やがて、全ての人間が、神の存在をそして死するものはひとつもない、ということを知るだろう。
みんな(老いも若きも善きも悪しきも)、神を見る日がやって来る。
そして、このことを、お前は全世界に伝えなければならない。
いくら自分の心の中で反論が起き馬鹿げていると抵抗しようが、【自分は選ばれたものだ】と自ら発表することは、すでに定められた【使命】である。
心は戦う、嫌悪する。
そして、それさえも定められている。
そのようなことをいう自分を馬鹿にし、恥ずかしさに苦しむこと、しかしこれも割り当てられた【使命】なのだ。

しかし、だが、そして、お前は心から湧き出る不思議な涙を流すだろう。
聖なる悦びの涙。
聖涙は神の微笑みである。〜

ざっと、こういう内容だった。
読むうちに、本の主人公はいつのまにか姿を消し、私自身が主人公となっていた。
何者かがダイレクトに、これらのことを私に伝えようとしている!
そう感じて私は震えた。

私は、この主人公とよく似た性格の持ち主だった。
本のページをめくるたび、主人公と同じ感情、同じ感覚を味わった。
そして最後には、やはり私も主人公と同じく、聖なる悦びの涙を流していた・・・。
私もいつか、『自分は選ばれた者である』そう宣言する時がやって来るのだろうか?
運命の本と、私は出会ってしまったのだ!



 
   
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