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  自 己 表 現


イベント当日、私は唄を歌った。
その時の、私に出来る唯一のことだった。
それは、私が予想もしなかったほどの異常な盛り上がりを見せた。
喜びはしゃぎ興奮する聴衆に、私は『なぜ?どうして?』と驚きを隠せずにいた。
頭の中でさまざまな思考が駆け巡り、その疑問に対する答え探しが私の中で始まっていた。

私はただ、今ある自分を表現しただけ。
その時の、私に出来る精一杯の自己表現をしただけだった。
唄の上手い下手ではなく、ありのままそのままの自分を自由に表現した私に、彼らは感応したように思えた。

この場所で過ごし始めてから、密かに感じていることがあった。
ここにいる人たちは、真理という『』枠によって自らを縛っている(縛られている)。
本当の真理とは『』枠などないはずなのに、『』枠に引っかかってがんじがらめになり、本来の自己表現を忘れ苦しんでいる。
・・・そんな気がしていた。
だから、そんな『』枠から外れ、ありのままを差し出した私の自己表現に、彼らの奥底の魂が感応したのかも知れない、私はそう解釈した。

だが、私以外にもう一人、その場においてとても型破りな自己表現をする者がいた。
彼はB氏と言い、今後の私の人生において、重要な鍵を握る運命の存在だった。
私がこの日、自分の誕生を祝うがごとく壇上に立って唄を歌っていなければ、B氏の記憶に私という存在もまた、インプットされることはなかったのかも知れない。



 
   
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