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  見 え な い 道 の り


『自分が何者であるか』という理解や、そういった夫に対する見方や解釈の仕方・・・。
全てを愛の現われで完璧なんだという思いに至るまで、私はまだまだいろんな体験をしなければならなかった。
 
私が夫に対する感謝の思いを表現し始めると、夫の心の中にあった鉄の扉が熔け始め、夫の態度も少しずつ変化し始めた。
別居状態にあった私は、ついに夫の元へ戻ることを許された。
しかし、一度独りになる喜び・解放感を味わった夫にとって、再び誰かと一緒に暮らすことは、息の詰まる思いだったようだ。
私は週に数日、実家で過ごさなければならない生活を余儀なくされた。
夫に対する執着が抜けきらない私にとって、そのことは非常に辛く悲しいことだった。

そういう状態を望む夫への不満、それに加えて女性の影に対する不安やセックスレスの恐怖、借金などの金銭問題などなど・・・。
戻れたとは言っても、私にとっては未だ夫を許せない心と葛藤の苦しい日々だった。
それに「もう、これ以上やっていけない」と、いつまた言われるんじゃないかという恐怖心と戦いながら、私は毎日を過ごした。
もちろん、こんな心境の私と一緒に暮らす夫にとっても、決して楽しい生活ではなかっただろう。
仕事柄仕方ないとはいえ、連絡なしの外泊もまた、私の妄想を膨らませていった。

そのような生活の中、二度目の別居が始まる。
最後の切り札とばかり、「俺には女がいる」「もう今度はやり直せない、もう無理だ」と夫は言った。
事実半分、そして私の妄想半分が、その時の現実を作り出した。
 
パニックを起こしながらも、私は結局それを受け入れることしか出来なかった。
夫を責めることも、泣きわめくことも無かった。
ただただ、『同じことを繰り返している』、その思いだけだった。
何故なら、またもや夫はぎりぎりまで自分を抑え、そして私は自分のことばかりで夫を見ようとはせず、二人が本当の意味で見つめ合うということをしていなかったからだ。

別居に関しては承諾したものの、離婚はどうしても嫌だと私は言った。
心から納得がいくまで、判は押さない・・・と。

生まれて初めて、私は独り暮らしを始めた。
相変わらず夫と離れる悲しさはあったが、正直なところ夫との生活の恐怖心から、私は解放された気がしていた。
テレビもラジオも何も無い部屋で、静かに外の音に耳を傾けるという暮らしは、忘れていた穏やかな気持ちを思い出させた。
聞こえてくる人々の暮らしの生活音から、それぞれの幸せな姿を思い描いたり、ただ静かに自分の内面に目を向けてみたり。
夜には星を眺めながら平和な心で祈るという、そんな毎日の時間が過ぎていった。
 
やがて・・・『私の心の中にある恐れや迷い。もし、今気付くことが無かったとしても、いつかは吹き出して来たであろう私の心の問題。それらを乗り越えるために、私には今ハードルの道が与えられているんだ。焦ってはいけないこと、自分の我にしがみついて行動してはいけないことを、私は覚えつつある』・・・こんな風なことが、浮かんでは心の中に落ちていった。
 
どんな状況にあっても、本来は愛し合っていることを感じている二人だった。
だから、私の変化と共に夫もまた変わっていった。
そして、今度は本心からやり直そうと、夫は思ったのだった。
私は再度、愛する夫の元へ戻ることとなった。

果てなく続く、目には見えない道のりを歩くために・・・。


 
   
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